朝、何時もよりも遅めに学校に着いたにも関わらず何やら騒がしい昇降口。
どうやら原因は大量の女子だそうで。
まるで全校の女子をかき集めたんじゃないかってくらい、大量の数。
はそんな少し殺気がかった女子達の間をスルリと掻き分けて進んだ。
どっちかというと無理やり押し分けたに近いかもしれないが。
それは「遅刻だけは絶対したくない」という心理のせいで。
何故にがこんなにも遅刻は避けたいのかというと、
のクラスの担任教師が、あの榊太郎(43)だからである。
榊と言えば、氷帝学園テニス部の命名高い顧問。
であると同時に熱烈なアニオタ(=アニメオタク)らしい。
は以前遅刻をした時に榊にセーラー○ーンのコスプレをさせられ
もう二度と遅刻はしないと心に誓った。
だが今は遅刻の危機である。
腕時計でチラチラ時間を確認しつつは前に進んだ。
ようやく女子の集団から抜けて、教室の自分のイスに滑り込んだ瞬間
榊が教室のドアを開けて入ってきた。
「…お前、今ちこ「してません!
セーフです!某野球チームヤン○ースの松井の素晴らしい走り並にセーフです!」
「そうか…」
榊はいかにも残念そうに溜息を吐いた。
その後榊は述べ10分程延々と「次はキューティー○ニーのコスプレにしようと思ってたのに…」等と呟いていたが
生徒一同必死にスルーしていたとか。
そしてようやく朝のHRが終わって、ははあーと大きな溜息を吐いた。
朝のプチバーゲンセールのような状況を掻い潜って来て疲れたのか、
机にへたりと倒れる。
その様子に苦笑しながらに声を掛けた。
「ーっ!お疲れ様、良かったね?榊先生の餌食にならなくて」
「当たり前じゃん…もうコスプレはごめんサ…!」
「良いじゃんセーラー○ーン!似合ってたよ?そりゃあもう怖いくらいにv」
「嬉しく無いわァァァ!もう二度と口にしないでそれ!ホントに!」
「えー、可愛いかったのに…。あ、そういえばさー。は跡部に何あげるの?」
「へ?何って…何が?」
「え?だから跡部の誕生日に何あげるのって聞いてるんだけど」
の一言には固まった。
「へ…?!ちょ、ちょっと待って!今日って跡部の誕生日なの?!」
「え?!知らなかったの?!」
「知らないよそんなの!聞いたこと無かったもん!てゆうか何でが知ってるの?!
ま、…まさか…跡部オタ「違うわァァァ!勝手に変な妄想繰り広げるなァァ!」
「えっ?!じゃあ朝のあの大量の女子はまさか皆景吾にプレゼントをあげようと…?!」
「そりゃそうでしょ。なんせ天下の跡部様だもんねー。」
「いいなー・・・プレゼント、羨ましい・・・!」
「いやいや、そういう問題じゃないでしょ!ってばプレゼントどうするつもり?
アンタ一応跡部の彼女なんだから!」
「あ・・・・!ホントだ!どうしよう・・・・!」
焦ったは急いで鞄の中を引っ掻き回した、が当然の如く何も出て来ない。
はいつも重いからという理由で全教科の教科書を学校に置いて行き
いつも鞄に入っているのは携帯電話と財布とその日の昼食程度だった。
の机に広がったのはその3品のみ。
とりあいず携帯電話はあげる訳にはいかず、残ったのは財布と昼食のみ。
「や・・・!、私昼食だけは譲れないよ…!いくら跡部でも今日のおかずは大好きなからあげなのっ…!」
ぎゅうっといかにも大切そうにお弁当箱を抱き締める。
その時点でお弁当はすでにオジャンである。
「うん、誰もいらないよ。誕生日にグチャグチャになった弁当なんかv」
「ひどい…!景吾ならきっと食べてくれるもん!」
「お前弁当あげたいのかあげたくないのかハッキリしろォォ!」
という訳での机の上に残ったのは財布のみ。
の財布、と言ってもそんな高級なものでは無くて
いかにも女の子ですといった感じのピンク色のキティーちゃんの財布だった。
「でもさー、跡部どうせ今日も部活あるんでしょ?放課後ダッシュでデパートとか行ってなんか適当に買ってこれば?」
「あ!それナイスアイディア!、頭良いーっ♪」
るんるん気分で財布の中身をチラ見したはまたもや固まった。
それもそのはず、なんせの財布の中身は残金25円。
小学生もビックリな残金である。
「ね・・・、一体何を買ったらこの残金な訳?」
「え、えーと・・・!お菓子と…か?」
「・・・・・・・・・・・で、どうするのさ…。私お金を貸すのはご免だからね」
「ちょ、ちょっと私テニス部の皆に相談してくる…!」
さすがのも危機感を感じたのか、の返事を聞かずにダッシュで教室を後にした。
もの凄いスピードで走って行ったをは苦笑気味に手を振りながら見送った。
「おったりおったりおったりーん!おったりーぬー!」
「…その呼び方止めい言うたやろ?で、何かあったんか?」
「あのさ!今日が景吾の誕生日だって知ってた?!」
「知っとるで、そんなん。毎年盛大に祝われとるやないか。も見たやろ?今日の朝のあの行列」
「うん!でもまさかあの凄い大群が皆景吾目当てだとは…!」
「え…?、お前まさか今日が跡部の誕生日やって知らんかったんか…?」
「うん」
あっさり言うに、忍足はクラリと眩暈がおきそうになった。
「はあ…普通は彼氏の誕生日くらい覚えとくもんやで?」
「普通じゃないのがちゃんサ!」
グッ、と親指を突きたてるを軽くスルーして忍足はに聞いた。
「んで・・・それじゃあ跡部のプレゼントどないするん?」
「そう!それの相談に来たのよ!どうしたら良いと思う…?
ちなみに私の今の残金、チョコバ○トが2本も買えちゃう値段なの!」
「ダメやないか!どうする言われたってなー…あ!ええことが一つあんでv」
ニッコニコと笑顔で何かを思いついた様子の忍足。
は何なに?と嬉しそうに忍足に聞き返した。
「プレゼントはわ・た・しv作戦でどうや?」
・・・・・・・・・・・・・・・・。
「ごめん、おったり。聞く相手間違えてたみたい…」
はくるりと百二十度回転して教室を後にしようとした。
「こらこら!、人の話は最後まで聞くもんやで!」
「触んなこの変態伊達眼鏡がァァァ!」
の肩をガシッと掴んだ忍足。そしてその忍足の手を瞬時に払いのける。
お笑いコンビを組めそうな二人である。
「うせやん!伊達眼鏡はホンマやけど変態は無いやろ〜!」
「おったり…話の続き聞いてあげるから早く言って!」
「もう1個あるで…?これはもう本当に良いプレゼントやと思うんやって〜v」
「ど、どんなプレゼント…?」
「がメイドさんになって跡部にご奉仕するvっちゅーのはどうや?」
ニヤニヤと満面の笑みを浮かべる忍足。
ここまで来たら面長の顔に似合っている丸眼鏡もただのオタク度を上げる代物でしか無かった。
「黙れ変態オタクがァァ!一回自分の家の病院で見てもらって来い!」
はがっくりと肩を落としながら教室に戻った。
その後も宍戸や鳳などテニス部メンバーに話を聞いたみたが、
宍戸は「ミントガム」の一言。
鳳は「本物のししゃものよさ」について延々と語りだし、
向日は最近羽のアクセサリーにハマってるらしく、「鷹の羽」
樺地は「…ウス」で、
日吉は「毒キノコ」だった。
芥川に至っては「羊の抱き枕v」で
正直な話跡部が羊の抱き枕と一緒に寝ていたら真面目に怖いため却下した。
そしてまともな意見が一つも見つからず、放課後。
そこにはいつもより大層、ご機嫌な様子の跡部がいた。
鼻歌なんか歌っちゃったりしていてからのプレゼントを楽しみにしている確立120%である。
だが幾ら跡部がそんな様子でもは忘れていたのだからプレゼントがある訳も無く、
結局良い案が見つからないまま跡部の部活が終了した。
はいつものように部室で跡部の帰りを待っていた。
部室の扉が開いて一番最初に入ってきたのは跡部、その後ろから皆が続いて入ってくる。
が皆に「お疲れー」と声を掛けていると跡部がの座っていたソファーの前にやってきた。
「…お前、今日が何の日か知ってるんだろうな?」
「知ってるよぉ〜?景吾の誕生日だよねっ?景吾、おめでとう!」
ニコッと満面の笑みで言う。笑顔の裏に「頼むからプレゼントにはツッコまないで!」と懇願しながら。
だが跡部がそれを忘れるハズも無かった。
「で、俺様へのプレゼントは勿論用意してあるんだろうな?アーン?」
ゴクリ、と部員全員とが緊張するのが空気で感じられた。
跡部以外の相談を受けたレギュラーはハラハラと二人を見守った。
「も、もっちろんv用意してあるに決まってるじゃないv」
ひきつり笑顔で言うが差し出したのは、ラッピングされた割と大きめの包み。
それを見た一同は満面の笑みを浮かべた。
一人は、ただ純粋に喜びの笑顔と・・・
その他大勢は「これで跡部の不機嫌のとばっちりが来ない…v」という笑顔だった。
いそいそと跡部がラッピングを開く。
そのピンクの包み紙の中にあったのは同じくピンクの猫耳だった。
これには以外の全員が固まった。
跡部なんかは、額に青筋を浮かべている。ピクピクである。
「オイ……これは一体何事だ…?」
「え…?どーしたもこーしたも…猫耳だよっ?」
は精一杯可愛い声を出してみたが、無理があったようだ。
「ンなのは見れば分かるんだよ!何でコレが誕生日プレゼントなのかって聞いてンだよ!」
は、まさかさっき榊先生にそっと渡されたからなんて言える訳も無く、
必死に思考回路を巡らせた。
「えー、えーっと…ホラ!景吾って超格好いいじゃない?
超格好いい景吾が猫耳付けたら超可愛いくなって
景吾はもっと完璧な男の子になるって思ったからっ♪」
スラスラと嘘を平気で言う自分の口には少々驚きつつ、
冷や汗ダラダラで跡部を見た。
跡部は猫耳をジッと見つめて何かを考えている様子。
(ま、まさか今のを真に受けたんじゃ…)とテニス部レギュラーがハラハラしていると
跡部はバッと 猫 耳 を 持 っ た ま ま 走って部室から出て行った。
「っええ?!狽ネ、何で跡部出て行っちゃったの?!」
「ま、まさか跡部拗ねたんとちゃう…?」
「と、とりあいず追いかけてみる!」
は忍足の言葉を少々胸に残しつつ跡部を追いかけていった。
外はもう暗くなり始めていたが跡部は結構部室の近くにいて(部室からは見えなかったが)
はそっと跡部に後ろから声を掛けた。
「景吾…?ど、どうしたの?急に走っていって…。
やっぱり…怒った…?」
恐る恐るが問いかけると、跡部は未だ黙ったままで。
は何も言わない跡部を不思議に思い、そっと跡部の顔を前に回って覗き込んだ。
そこには暗闇でよく見えないがほんの僅かに頬を染めている跡部の顔があった。
そのあまりの可愛いさについの頬まで赤くなる。
「け、景吾?あの…?」
「ちげっ…!お前が…あんなでかい声で格好いいだなんて何回も言うから!
くそっ…情け無ぇ…」
やや恥ずかしそうに顔を背ける景吾。
ただ照れていただけだったのだ。の言葉に。
その行動の可笑しさと可愛いさに、はぎゅっと跡部に抱きついた。
「景吾っ、大好きー!」
の行動に跡部は驚きつつもを抱きとめて、そのまま強く抱き締めた。
「俺もお前が好きだぜ?猫耳は付けねぇがな」
「うん、ゴメンナサイ。正直な話今日が景吾の誕生日だって知らなかった…!」
「んなこったろーって思ったぜ、コレ見た時によ」
跡部は溜息を吐いて猫耳をどこかに放り投げた。
「勿論、この埋め合わせはしてくれるんだろうなァ?アーン?」
「…分かってますよ。今度ね、今度!」
「いいや、正しくは…今夜、だな」
跡部はもう一度ニヤリと微笑んだ。今度は自信満々な微笑みで。
HAPPY BIRTHDAY DARLING!
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もつれ終了。(笑)
ちなみに跡部が途中で投げた猫耳は後でこっそりと榊か忍足に拾われてたらしいです。(笑)
まあ何はともあれ景吾さんハッピーバースディ★愛は篭ってる・・・と言いきる。