響く、鐘の音。煌びやかな舞踏会の開始の合図。

一国の王子様は其れを酷く苛々した様子で聞いていらっしゃいました。

王子の名を、景吾様。本日開かれる舞踏会の主役となられる御方です。

でも今日は王子、基 景吾様のお誕生日でも、何でも御座いません。



でしたら何故に舞踏会など開かれているのかと申しますと、



景吾様の結婚相手を決めるためで御座います。




景吾様はもうそろそろ、御気になさる姫君の一人や二人いても不思議では無いお年頃です。

ですが王様が景吾様を他国のパーティーへ連れて行っても、社交界へと赴かせても、

景吾様の御眼鏡に叶う姫君はいらっしゃいませんでした。

景吾様は素敵な御方。理想が少々高くても仕方がありません。

けれども、王様はどうしても息子の恋路が気になる様子。

ついに我が国のお嬢様方を皆集めて、王子様の結婚相手を決める舞踏会を開いてしまいました。


それが今夜の舞踏会で御座います。





勿論、景吾様は乗り気では御座いませんでした。

焦りたくは無い、とこっそり私にはお教えくださいましたが、私も所詮王様に使えている身。

まあ、そう仰らずと景吾様を宥める事しか出来ずにいました。






















やがて、景吾様は会場へと迎い、一人一人のお嬢様方と顔合わせをしている様子。

ですが、幾人ものお嬢様方が顔を合わせ挨拶をして素敵な笑顔を浮かべられても

景吾様の御口はお上手に繕い笑いをしたままで御座いました。


























その時、入り口の方からチリン・・・と微かに音がしました。

まさか敵襲かと皆さん心配なさり、脇に隠れてらっしゃいました兵隊さん方が一気に玄関となるドアを囲みました。


















シン、と静まり返った大広間。




そのドアを恐る恐る開かれたのは、それはそれは美しく、小柄で真っ白のドレスを来たお姫様で御座いました。



兵隊さん方や、会場のお嬢様方。執事様や王様までもがその美しさに呆気に取られている中、

景吾様は直ぐに立ち上がって、そのお姫様の所へと向かわれました。

ドアを囲んだ兵隊さんをスッと押しのけて、そのお姫様の前へと景吾様は立たれました。

そして、お姫様の手をとり甲に口付けを落としました。





「ようこそ、美しい姫君。このような手荒なお出迎え、失礼存じ上げます」


そう言った景吾様は直ぐに兵隊さん達の方を一睨みし、さっさと下がらねえか!と仰りました。

兵隊さん達は慌てて脇へと戻っていかれました。

お姫様はその様子を見て、クスリと笑いを零され、景吾様に向かってご挨拶をなさいました。



「初めまして、王子様。私は、と申します。大切な舞踏会に遅れてしまい、申し訳御座いませんでした」



「いえ、そのような事など気になさらず。貴方のような方が来て頂いただけでも嬉しい限りです。
 ・・・宜しければ、私と一曲踊っていただけませんか?」


これまでどのお嬢様を見ても、このような事など一切口にしなかった王子様がお姫様にお申し出をなさいました。

会場からはワッと驚きの声が上がりました。





ですがお姫様は一つも物怖じせずに、にっこりと笑みを浮かべてお答えなさいました。



「はい。私でよければ、是非お相手させて頂きます」













傍らで流れ始めたワルツに合わせて、景吾様とお姫様は踊りだしました。

お二人のワルツはとても綺麗なもので、周りからは溜息が多々聞こえたりもしました。


やがてお二人は、踊り終えて散歩がてらに中庭の方へと赴いていかれました。









姫は・・・どちらのお家の令嬢なのですか?」


景吾様は尋ねますが、お姫様は苦笑して首を横に振ります。




「教えられません・・・話すな、と言われているのです」



「・・・?教えられない・・・?どうして、でしょうか?俺はもっと・・・貴方の事が知りたい」



「・・・・ですが、言ってしまっては魔法が解けてしまうのです・・・。折角憧れの王子様に会えたのですから
 ・・・もう少しだけ、夢を見させては頂けませんか・・・?」





お姫様が余りにも切なげに見つめるので、景吾様は仕方なく気にしない事にしました。


















お姫様と王子様が中庭の噴水の淵に座って、仲良くお喋りをしているその時。

12時を告げる時計台の鐘が、ゴーンと深い音を立てて響きました。

それを聞いたお姫様は慌てて立ち上がり、王子様に仰いました。




「景吾様・・・私はもう行かなくては・・・」



「そうですか・・・でしたら、最後に貴方の上のお名前をお教え願えませんか・・・?」


「・・・それはー・・・・無理・・・です。先ほども申しましたように・・・」


「でしたら何か・・・後々姫を探し出せるものを、お教え下さい・・・!」














景吾様が仰った時、少し考えた後に姫はニコリと優しく微笑まれました。












「でしたら・・・良いですわ。私の全てをお教えします・・・」







ほっと安堵の息を零す景吾様に、お姫様はそっと歩み寄って首に手を回し、一度だけ深い深い口付けをなされました。










「きっと貴方は私を見つける・・・。そう信じています」


















そっと唇が離れると、お姫様はもう一度妖艶に微笑み、そっと闇へと姿を消しました。






その時にはもう、時計台の鐘は最後の音を響かせ終わった時で御座いました。


















































━ 一度のキスに、私の全てを込めて。
     決して逃げられないようにと、とびきりの罠を仕掛けて。━
























私を探して
(だって貴方に見つけられたいんですもの)






























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何気にこんな口調が好きだったりします。大●見てたら何故か思いついた・・・!(笑)
企画サイト2-TOP様へ  written by 蜜蜂林檎