例えばアイツが百歳を過ぎて俺が知っていた頃のアイツとは似ても似つかない姿になってしまったとしても俺には関係無いと思う。
だって今此処に抱える思いの大きさが果てし無い。今俺の心の奥底までアイツに見せてやりてぇくらいに今の俺には本当にアイツしかいねえ。
周りに群がる黄色い声援を出すしか脳が無いような無能な奴等とアイツは最初から全然違ったんだ。
奴等は俺の外見しか見ていなかった。それなのに軽々しく「好きです」なんて言ってきやがって俺の何処を好きになったかも言えねえ癖に。
俺がちょっと話しかけてやればどうだ?嫌われまいと必死な一言一言の無駄なまでの気遣いが
ひしひしと伝わってきて安らぎなんてあったもんじゃねぇ。女は人間学的には癒しを与える存在らしいが俺にはその見解は
絶対間違ってるとしか思えなかった。 唯一当たっている女はアイツしかいねえ。だけが俺に全てを齎してくれた。だけが最初から俺に何も媚びずに、 屈託の無い笑顔でいつも俺の傍にいてくれたのに。こんなにも大事にしていたこんなにも思っていた。 なあ何でだ?こんなに大事なが何故今俺の隣に居ない。どうして俺らを引き離そうとする。 周りの奴等が何て言おうと俺には関係ねえ。俺にはアイツが全てだったのに。 何故今目の前のは笑わない?何時も笑ってたじゃねぇかよ。四六時中笑っていたくせに如何して。 一緒に外に出掛ければ小せえ花を見つけただけで一番星を見つけただけで手を繋いだだけでその薄い桃色を帯びた唇にキスをしてやっただけで 小さな頬を思いっきり緩めては何時かそのまま頬が皺くちゃになってしまうんじゃないかとまで思っていたのに。 なのに今のは何で笑わないんだ。また何処かで寝てるのか?一体何時まで寝てる気だ。俺様をこんなに長時間待たせるなんて許さねえと何時も あんなに念を押しておいただろうが。早く起きろ。そしてその女ならではの高い声で俺の名を早く呼んでくれ。 「景吾」と。小さくたって良いんだぜ?今の俺なら仕方ねえから世界の裏側に居てもその声の居場所を探して 飛んで来てやるから。とにかく早くしろよ。今の俺は少し可笑しいんだから。 だって今目の前に変なものがあるんだ。黒い大きな陰気臭い箱に入っているお前の細い体があるんだ。 でも此れはお前じゃねえだろ?がこんな風になる筈がねえんだ。は何時もこういう黒いものや陰気臭い場所が好きじゃなかったんだからな。 暗闇でさえ怖がっていたんだ。夜の星空は好きなくせにな。それにの頬はこんなに青白くなんかねえよ。 いつもほんのりと頬をピンク色に染めて照れた笑みを浮かべてたんだ。だから此れは絶対じゃねえんだな訳がねえんだよ。 は何処にいる?早く早く俺の所に来いよ。いい加減我慢の限界だ。そりゃあ俺に我慢は得意だがな? 幼い時から我慢ばかりしていたし、嘘も沢山吐いた。こんな俺だけどよ。こればかりは我慢出来ねえ。 早くしろ。早く俺の隣に来て此れは悪い夢だよと笑ってくれよ。 |