が教科書を貸してくれと俺の所に来たのがほんの数十分前。
何時もの俺なら甘えんじゃねえよと足蹴にするが、相手に促されるままに渡してしまったのはが強引だったからか。
それとも、俺がに対して特別な何かを抱いているか。
勿論、恋も分からないような餓鬼なつもりは微塵も無い。
過去に何人とも付き合った事だってあるし、それなりに行為もした事もある。
けれど、に対する此れは今までの奴等に対する物とはどこか違う。
もっと特別で、柔らかくて、乱暴な扱いをしたなら壊れて崩れ去ってしまいそうな。何か。
「景吾ーっ、教科書返しに来たよ。ありがと!」
授業が終わって数秒とせずに、は俺の教室へとやってきたらしい。
扉の所からちょいちょいと片手で、何時もの満面の笑みのが俺を呼んでいた。
「やけに早いじゃねーかよ、。お前まさか、俺に教科書借りておきながらサボったんじゃねえだろうな?」
「ま、まさか!すぐ来ただけだもん!」
とにかく景吾も次英語でしょこれありがとう助かったじゃあね!
早口でまくしあげたかと思えばは俺に教科書を押しつけてあっという間に走り去ってしまった。
何時もとは違う慌ただしい態度に眉間に皺こそ寄りはしたものの、去った相手に何か言える事も無くて。
俺は仕方なく押しつけられたEnglishと書かれた教科書を手に席へと戻った。
それからすぐに、英語の授業が始まった。そういえばは何で俺のクラスが次英語だというのを知っていたのだろうか。
ふとそんな疑問が脳裏を過ぎったが適当に、クラスの誰かに聞いたんだろうと思考を授業へと集中させる。
「それじゃあ、跡部君。次の英文読んでくれる?」
英語担当の、少し年配の女教師が俺へと指した。
がたりと椅子を引いて立ち上がり、教科書に目を通した。簡単な、文。
「Ken decided to declaration of love. And, Ken called her and said later.…っつ…!」
英文を読んでいれば、自然とよく見てしまう教科書。
そう、よく見ないと気付かなかったんだ。
掠れかけの薄いマーカーで一つの単語に、アンダーラインがしてあった事に。
そしてその後ろに本当に小さく、よりと書かれてある事に。
予想もしていなかった事に動揺して、らしくないと思いつつも照れてしまうのが、分かった。
(ど、どうしたの跡部君?!何処か可笑しい所でもあった?)
(いえ……何でもありません。すいませんでした)
I love youにアンダーライン
(の野郎、後で覚えておきやがれ!)
照れ跡部は書いてて自分で違和感!でも可愛いと思う、うん。