9月12日。俺にとって1番良い日になるはずの日! そう思って眠った昨日の夜の期待通りに、俺は朝から幸せだった。携帯には友達からの誕生祝いのメールがたんまり。その中には勿論俺の彼女であるからのもあって。「誕生日おめでとう、岳人!大好きだよ!」だって。嬉しくて思わず顔がニヤけちまう。 「あらー、岳人ご機嫌ねぇ。ちゃんからもメールあったんだ?」 そんな俺よりもニヤけているであろう姉貴に言われて、俺は思わず顔に熱が集まるのが分かった。 「なっ!くそくそ姉貴、見てんじゃねーよ!」 言い返した俺にあっはっはと豪快に笑う姉貴とお袋。ついでにその隣でくすくす笑ってる弟。すげームカついていつもならもう一言ぐらい言い返すとこだけど、今日は俺の誕生日ということで朝から好物も出してくれた事だし(何よりからのメールがあったし!ここ重要!)許してやることにした。 そろそろ行ってくる、と腰を上げれば「今日の夜はちゃんとちゃん連れて来るのよ!」と背中に声を掛けられうるせーよとしっかり返してから家を出た。いつもよりちょっと遅めの時間だけど、チャリを飛ばせば普通に間に合う時間だ。何でいつもより遅いかって?だって皆に祝って貰いたくて早く学校に来た、なんて思われたらかっこ悪いじゃねーか!侑士辺りが絶対言ってくるに決まってる! 「あ、向日じゃん。おはようと誕生日おめでとー。」 「おう、サンキュー!」 「へえ、誕生日なんだ。おめでとー!」 「ありがとなー」 チャリに乗りながら歩いてるやつを追い越すと次々に掛けられる声。それら全てにしっかり返事をしてから、俺はチャリを駐輪所にとめて玄関へと向かった。すると「向日君!」と背中から聞こえてきて振り返ればそこに居たのは女子の軍団だった。うお、ざっと見て10人…くらい? 「あのっ、今日誕生日だよね?おめでとう!」 「ああ、サンキュー」 「これよかったら受け取って!」 少し早口で押し付けるように一番前にいた子がプレゼントを渡してこれば、後ろにいた子達が次々とそれに乗っけるように流れてきて、俺の腕はあっという間にプレゼントでいっぱいになった。…去年も凄かったけど今年も凄いことになりそうだ。忘れかけていた事実を思い出して、とりあいず貰ったものは落とさないようにしながら俺は教室へと向かった。 「おはようさん岳人。やっぱり朝から貰っとるなあ」 いやん岳人くんモテモテー、と後ろからきた侑士が笑いながらやってきた。おう、どーだ俺のモテっぷり!とふざけて返せば跡部のトラック2個分にどこまで対抗出来るやろなあという頷き。…別に対抗する気は無えけどよ。 「岳人は絶対学習せえへんと思って今年の俺からのプレゼントはこれにしといたで!」 じゃーん、というやたら大きい声と明るい顔の侑士の手にあったのは大きな紙袋だった。固まった俺を見ればほらやっぱりなとでも言いたげな顔で俺の腕の中にあるプレゼントを一つずつその袋に入れていく。全部を入れればほい、とそれを渡されてなるほどこういうことかと理解した俺は侑士に苦笑してサンキュと礼を言った。 「なんやその顔。別に俺からのプレゼントなんか何でもええやん。どうせちゃんからええもん貰ったんやろ?」 「…あ!そーだからのプレゼント!」 しまった俺としたことがすっかり忘れてた!付き合ってから初めての俺の誕生日だからは何をくれるんだろうとずっと前から楽しみにしてたんだ。はいつ聞いても当日のお楽しみだよ、としか教えてくれなかったし。 「まだ貰てなかったんか、ほなはよ教室行き?」 手を動かして俺を促した侑士にサンキュ、と返して(一体俺は今日一日で何回お礼を言うんだろうか。まあいいけど)俺は紙袋を揺らしながら教室へと走った。教室に着くまでの廊下の間もすれ違いだの教室からだの声を掛けられる。それら全てに笑顔で返してようやく俺は教室に辿り着いた。たかだか数十メートルがこんなに長いと感じるのもきっと今日だけなんだろうな、なんて思いながら教室に入ったら調度が教室から出てくるところだった。(うお、ラッキー!) 「岳人!おはよう、と誕生日おめでとう!」 「サンキュー!メールも嬉しかったぜ!1番乗りだったし」 「ホント?それはよかっ…た…」 言葉は途中で途切れての目が大きく開かれる。徐々にの顔から笑顔が消えた。いきなり顔を下げたに心配になった俺がどうした?と顔を覗き込めば、なんでもない、と小さな声。 「あ、あたし先生に用事あったんだった。じゃ、じゃあね岳人」 え、と零す暇もなくは俺の隣をすり抜けて俺が今来た廊下を走っていった。…変な。教師ならどうせもうすぐ来るじゃねーか。時計を見上げて数分以内に鳴り出すであろうチャイムを思ってから、俺はゆっくりと席に着いた。朝一番にから貰えるだろうと思っていたのに、ちょっと拍子抜けだ。主の居ないの席にちらりと視線をやってから、でも今日はまだ長いんだと自分に言い聞かせてから祝いの言葉を掛けてくれるクラスメート達にまた礼を返した。だけどはチャイムが鳴って1限が始まっても教室に戻ってはこなかった。2限の途中にようやく戻ってきたは何だか浮かない顔をしていた。の様子が気になって授業に集中できないまま2限目が終わり、俺はすぐにの席に向かった。 「!お前どこ行ってたの?どっか悪いのか?」 「あ、あの…ちょっと保健室に居ただけだよ。それよりあたし教科書借りてこなきゃ」 俺の質問にいまいち答えになっていない答えを返してはまたどこかに走っていってしまった。(しかも保健室に居たってそれ"だけ"じゃねえじゃん!)何なんだよ、と溜息を吐いてから俺はしょうがなく自分の席に戻った。 その後もは俺が話しかける度に一言二言理由をつけては俺から逃げていった。…これはもしかすると、 「見事に避けられてるなあ、岳人」 今まさに考えていたことを言われてばっと顔を上げれば、目の前の席に侑士が苦笑して座っていた。何したん自分、と聞かれてもう一度盛大に溜息を吐いてから何もしてねーよと返す。だって本当に理由が分からない。のメールだってちゃんと朝一で返したし、お礼だってさっき言った。そして何より今日は俺の誕生日であるはずだ。なのに、一番祝ってもらいたい最愛の彼女からは何も貰えずおまけに避けられる始末。…普通こんな日っていつもより良い日になるんじゃねえの? 「それは困ったなあ、いつからや?」 「今日朝会った時から」 「朝から?…ああ、なるほどな」 そういう事かと一人で納得している侑士になんだよ?と聞き返せばぽん、と肩に手を置かれてモテる男は辛いなと言った。(意味わかんねえ!)俺が思いっきり頭に?マークを浮かべているのに気づくと侑士はははっと笑ってから言った。 「つまりや、簡単に言うとちゃんはショックやったんや」 「は?何が?」 「これが」 ちょい、と侑士が指差した先にあったのは今日貰ったプレゼントの山が入っている紙袋だった。知らんかったんやなあ、ちゃん。いや、知ってても実際に見たんがショックやったんやろ。侑士の声が何だか遠くに聞こえる。俺はようやくのあの行動の理由が分かって、がたんと椅子を鳴らして立ち上がった。 「侑士!」 「ん?」 「行って来る!」 侑士の行ってらっしゃい、を聞き終わる前に俺は教室を飛び出していた。くそくそめ!馬鹿なことで悩みやがって!いや、馬鹿はじゃなくて大量のプレゼントを受け取った俺か?(しかも笑顔で!)だって嬉しかったんだしょうがねーじゃねーか!じゃ、なくてじゃなくて。俺はひたすら走り回っての姿を探した。ふと視界に入った中庭にはの背中。 「!…と、跡部…?」 ようやく見つけたと思ったらの隣には跡部らしき後姿もあった。2階の窓を思いっきり開いて目を凝らして2人を見る。間違いない正真正銘の2人であると跡部の後ろ姿に俺は何だか無性にイライラした。でもそれと同時に俺もにこんな思いさせてたのか、なんて今更ながらにに対して罪悪感がこみ上げてくる。早く謝らないと、と階段へ向かおうとしたらに向かって跡部の腕が動いたのが見えた。瞬間俺は叫んでいた。 「!」 がはっと振り返る。俺はそのまま窓枠に手を掛けて迷うことなく飛び降りた。岳人!とが呼ぶ声が聞こえる。体勢が悪かったのかしゃがみこむ形で着地すれば座っていたベンチから走ってくるに俺はすぐに立ち上がって走ってを正面から思い切り抱きしめた。へ、とが戸惑う声なんか気にせずに、強く強く。 「ごめん!俺、馬鹿だから気づかなくて!でも別にそういう訳じゃなくて!」 皆から貰えるプレゼントはそりゃ嬉しいけど、でも俺にはだけだ!が嫌っていうならもう何も貰わないし捨てろって言うなら捨てる!メールもおめでとうも全部からのが1番嬉しいから、だから。ぎゅうっと、更に力を込めればはそっと俺の背中に手を回して抱きしめ返してくれた。 「…あたしこそごめんね。岳人は優しいから受け取るって分かってたのに」 悪いのはあたし。だから捨てるだなんてそんなこと言わないで。皆からのはきっとあたしのよりもずっといいプレゼントだよ。そう言ったの声が震えていたから、思わずと向き合って思い切り馬鹿、と言ってやった。 「から貰えるもんなら、何だって俺の中で1番だっつの!」 だって俺の事考えながら選んでくれたんだろ?笑いながら聞けばは涙が溜まった目のままうん、と笑った。じゃあそれ以上の嬉しいものはねーよ!ちゃんと仲直りが出来てよかったと心の中で安心すれば、後ろから忘れかけていた跡部の声が掛かった。 「どーでもいいがお前ら、ここが学校って事忘れんなよ?」 …跡部の声に固まった俺ら。ふと周りを見渡せばそこらじゅうの窓から生徒達が思いきりこっちを覗いていた。ご丁寧にニヤニヤと顔を緩ませて。 恋に溺れて 愛にダイヴ (…した筈なんだがやっぱり恥ずい!くそくそ跡部め!) がっくんは忍足に恋の相談をしてると思う、無意識に!というより予想以上に可愛く出来上がって林檎自身がびっくりしてたり。 何はともあれHappy Birth Day Gakuto Mukahi !! (090912)(words by 1204さま...Thank you!) |