そう、それはきっと最初から訪れていた。





















「ほらっ、格好良いでしょー?」
隣で騒いでいるのはあたしの友達の
彼女は、学年でも綺麗な人だと有名で
その外見に似合わず、中身は意外と単純で
そう、簡単に言うと彼女は今恋をしているのだ。

我が、立海大男子テニス部のコート上の詐欺師の言われてる仁王雅治に。


「きゃーっ!今仁王がスマッシュ決めた…凄い格好良いー…」

彼をうっとりと見つめながら叫ぶ彼女は、ほんのり頬を桜色にして
その可愛らしい顔を満面の笑みで埋めて
属に言う、恋する乙女とかいうヤツだなって思った。

「ホント、好きだねー…?」

苦笑しながら言うあたしも、仁王を見つめる。
上から下までまじまじと見るのだけれども、何処が良いのかさっぱり分からない。

だって、髪の色は月よりも深いシルバー

手足はスラッと伸びていて女子の平均身長を軽く越していて

瞳なんか全てを見透かしているようで、あの瞳で見られるととっても居心地が悪そうで

もう全てが気に食わないのに。

頭の中がそういう思考でいっぱいになった瞬間

本当に一瞬なんだけど

仁王と目が合った。



背中を、ぞくっと雷が走った。


思わず瞬時に視線を逸らしたけど

あたしの心には完全にあの不敵な瞳がインプッドされた。


















体育の時間、女子は中でバスケ 男子は外でサッカーになった。
そんな休憩の合間合間、は「!仁王見に行こうよ!」としつこくあたしを誘ってきて。

あたしはふいに
「どうしてそんなに仁王が好きなの?」
って聞いた。

そしたら
「理由なんて分からないよ…ただ本当に大好きなの!」

満面の笑みで言われたら反論なんて出来ない。

いかにも青春してる女の子って感じで…

あたしはなんだか複雑な気持ちになった。


結局、の仁王ウォッチングに付き合わされたあたしは体育館の窓からちょこんと顔を覗かすをイマイチ焦点が定まらない目で見つめてた。

おそらく、仁王の動きひとつひとつで喜怒哀楽をしている
あたしの目にはとてもまぶしく見え

それと同時に、凄くイライラした。





何でだろう?どうしてにイライラするの?
彼女は大事な友達なのに













?どうしたの?なんだか凄い怖い目してる…?」

心配そうにあたしを覗き込むは、とても可愛いくて

「そう?きっとあたしが仁王を嫌いだからかも。を仁王に盗られるのが怖いのかもね」

冗談ぽい笑みを混ぜて笑って見せたら、は「何それ」と笑ってくれてホッとしたあたしがいた。











そう、あたしが仁王を嫌いだから









だからこんなにも彼を見ているを見るとイライラするんだ





あたしは、そう思い込みたかったのかもしれない





きっと そう思っておかないと、あたしの可笑しなプライドが許さなかったのかもしれない。










淡いオレンジが差し込む教室で

もうすぐテニス部の練習が終わるころだから、仁王にタオルを渡してくる。

と早くも照れ笑いを浮かべながら走っていったを見送って

あたしは窓からテニスコートを眺めていた。


薄い緑のテニスコートで、シルバー頭の仁王は凄い目立っていて

遠くから見てると、シルバーに微かに夕日のオレンジが光って見えて

また綺麗だなって思った。


そのまま仁王の髪に見惚れていれば

が小走りでやって来て

おぼつかない手つきで、恥ずかしそうに顔を俯かせて

仁王にタオルを差し出した。

仁王は暫くその様子を見つめてて

あたしは、「どうしてあの男は受け取らないの?」と少しイライラしていたら


ふいに、目があった。


でも無い、ジャッカル君でも無い、



仁王と





あの瞳と 目が 視線が重なった瞬間










胸にズシンと来た重量





「ガタンッ!」

あたしは、音をたてて座っていた椅子から滑り落ちた。

一瞬でも早くあの瞳から視線を外したくて

さっきまで肘をついていた壁に体をゆっくりと預けて

小さく深呼吸した。

















悔しい。

悔しい悔しい。

なんだかとっても悔しくなった。

















「ガラッ!」

突然開いた扉 現れたシルバーの大きな男

不敵な笑みを顔に貼り付けて、あたしの元へと歩み寄ってくる。


只、そのスピードはとてもゆっくりで


まるで 少しずつ 少しずつ 獲物を追い詰めていくチーターのように



でもあたしの体は動かない



動こうという意志さえ無かったのかもしれなかった


仁王があたしの目の前まで来て、止まった。


そのまま、しゃがみ込んで


あたしにあの   あたしの記憶に刻み込んだ瞳で 


・・・じゃったか?名前」


ククッと喉をならして笑う仁王


「・・・何で名前を知ってるの?」

その瞳に抵抗するように あたしは仁王を睨み返した。


「まあ、そう言いなさんな…ククッ、強い瞳…俺好みじゃの…」


そう言って仁王はあたしの頬に手を寄せて あの細い指先であたしの瞼をなぞったりした


如何しよう、鼓動が高鳴ってしまってしょうがない。

それでも仁王を睨み返し、小さな声であたしは言った。



「あたしに何をしたの?」


「さぁ?俺はお前さんが欲しいと思っただけ」



クスリと 笑みを浮かべた仁王は あたしの頭の両脇に手を置き


そのままあたしに口付けた。

グイとあたしを細い腕で その大きな胸へと引き寄せて

離れる事を許さないと言う様に あたしの脳裏を押さえて


「ふっ…におっ…っ…」

唇から自然と漏れた声が 頬を染めるのを感じた



あたしは自然と仁王の深い口付けに応えていた

頭が「嫌ではない」と感じていた



ようやく長い長いキスが終わった時

耳元で囁かれた言葉をあたしはきっと一生忘れない





















「罠に掛かった気分はいかがかの…?」


(良い訳ないけど悪い訳でもないかも、なんて絶対言ってやらない。)






























STRAY CHILD
(だって、どうせ迎えに来てくれるでしょう?)



























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色んな意味でORZ