歩く度にからんころんという音が響く。
普段聞きなれない音と歩きにくさに顔を顰めた。
お腹だってぎゅっと締めつけられて息苦しいし、袖もちらちらと邪魔くさい。
おまけに色は何とも可愛らしい薄いピンク色だ。
普段のあたしからは想像も出来ないような女の子らしい恰好に改めてあたしの眉間は皺を増やした。

『すっごい可愛いわよ!似合ってるわ〜』

数分前の母の言葉を思い出して深くため息をつく。
無理やり着せておいてよくそこまで気持ちよく声を上げれたものだ。
可愛いのは浴衣だけじゃないか。
雅治に引かれたら恨んでやる、と心の中で母に悪態をついた。

のろのろと歩みを進めていくと、ふと手に持っていた巾着が震えるのを感じる。
中に入っている携帯だと気づいた瞬間にはっと辺りを見回した。
やばい、今何時だろう?あまりに憂鬱すぎて時間なんかすっかり忘れていた。
慌てて巾着から携帯を取り出すと案の定雅治から『迎えに行くか?』とメールがきていて。
時計を見れば待ち合わせ時間からもう20分も過ぎていた。
ああ、もう最悪。今まで待ち合わせに遅れたことなんかなかったのに。
荒々しく携帯を巾着の中に仕舞うと同時にあたしは走り出した。
裾がある為どうしても小走りになってしまうがそれでも一生懸命走って、走って。

あの信号を渡ればもう待ち合わせ場所だと思って顔を上げれば、向いの道路には雅治の姿があった。
携帯を開いていた雅治はすぐにあたしの姿に気づいて、一瞬驚いたような表情を浮かべてからあたしの所に来てくれた。

「遅かったの。返事がなかったから迎えに行ってたとこだったんじゃよ」

「はぁっ、ごめっ…。走ってたから…返事、返せなくて」

まだ荒い息を整えながら言うと、雅治は苦笑しながら背中をさすってくれた。
一瞬誰か分からんかった、なんて笑いながら言って。
やっぱり浴衣なんか着てこなきゃよかった。雅治も待たせちゃったし、悪い事ばっかり。
息を整えるふりをしてそっと溜息を吐く。雅治はそれに気づいたのか気づいてないのか。
少し下を向いたあたしの顔を覗き込んでに、と笑った。

「浴衣着とったんなら言うてくれればよかったんに。走ったからちょお崩れとるぜよ?」

そう言って雅治は崩れた浴衣を直してくれた。
その時にぼそっと「俺はこのままでもいいんじゃが、ココは外だしな。」なんて囁いたから
雅治の手を叩いてやった。(なぜかもっと楽しそうに笑ってたけど)

「んじゃ、さっさと行くか。早いとこ行かんといい場所とられちまうし」

どちらともなく手を繋いで歩き始めた。一応もう一度ごめんね、と言っておいた。
そうしたら雅治は気にすんなと頭を撫でてくれた。
改めて周りを見渡すと、浴衣を着たカップルが一杯いて。
あたしもあれくらい可愛かったらなあ、なんてまたこっそりと溜息が洩れた。
隣で同じように周りのお店を見ていた雅治はふむ、と一息ついて。

「何か食うか?」

「うーん…あたしはいいや」

お腹が空いてない訳じゃないけど、何となくそんな気分にもなれなかったから。

「…ダイエット?」

「馬鹿。それより雅治は?」

「じゃあ俺もいらん」

雅治の冗談にくすくす笑っていると、いつのまにかお目当ての場所についたらしい。
皆は夜店に夢中になっているのか、周りは結構人が少なくて所謂穴場状態だった。
花火が始まる前に着いてよかったねなんて言ってると、どこからかアナウンスが聞こえてきて。
始まりの合図を告げるファンファーレが遠くで鳴っていた。
アナウンスが鳴り終わってしん、となった時に雅治はあ、と思い出したような声を出してあたしを見た。
何かと思って雅治と目を合わせると、雅治はそっとあたしの耳元に口を持ってきて。

「言い忘れとったけど、浴衣似合うとるぜよ。可愛い」


そう囁いてすぐ後に、ドーンという花火の音が聞こえた。
雅治は花火に目もくれず、にやりとしてやったり顔をしてあたしの耳にちゅっとキスした。
あっという間に顔が赤くなっていくのがわかって。恥ずかしくて、恥ずかしくて。
花火が始っていてよかったと心から思った。こんなあたしを見ている人はきっといないだろうから。

「、可愛い。顔真っ赤」

そう、さっきから楽しそうに頬を緩ませてあたしの顔にキスを落とすこの男以外には。


(雅治の馬鹿!お陰で花火見れなかったじゃない!)
(俺は花火より綺麗なもん見たから満足なんじゃけどな)
(!)
(くくっ、ホラ。安心したらお腹空いたじゃろ?かき氷でも買ってこ)
(…うん)






花火色ガール
(君の行為だよ)




仁王は最初落ち込んでるちゃんを見て楽しんでるといい。