頬を撫でる風は1ヶ月前に比べるとかなり冷たくなった。
風通しの良い屋上なら尚更の事。 シャツにブレザーを羽織っただけで、おまけにネクタイも緩めていたあたしにとっては、強く風が吹けば少しだけ肌寒かった。
夏の日差しが懐かしい。空を見上げても柔らかい光しか映らなくて、ギラギラだった太陽に慣れてしまった目には物足りない。 秋が嫌いな訳じゃないけど、それでも紅葉や美味しい食べ物なんてのは、青天の海の輝きとか花火の心臓にまで響くような衝撃とかには比べ物にならない。 夏が好きな人には秋の訪れは憂鬱になってしまうものなんだろうか。
少しだけ開いてる首元やスカートの下から入り込んでくる風が、夏の所為ですっかり火照ったあたしの体を、思考をクールダウンさせてる気がした。

「ココにおったんか、。」

ふと、いきなり掛かった声に後ろを振り向けば雅治がいた。
人より寒がりなこの男は、しっかりとブレザーの下にカーディガンを着ていて。 この風の所為かどうかは分からないけど、ボタンもいつもより一つ閉まっていた。
雅治が首元を隠してるのは珍しい。束縛とか、拘束とかその類を嫌う人だから。
その癖に人をそうしたがるけど、まあそれは置いておいて。
夏には常時見えていた、骨張った男らしさを感じる鎖骨が見えないと何だか落ち着かなかった。
そんなに寒いかこの軟弱男、と心の中でこっそりと悪態を吐いていれば、あたしのいる柵の所まで歩いてきた雅治。 そしてあたしと同じように柵に両腕を預けて凭れかかれば、そのだらしない体制のままポケットをまさぐって何かを取り出した。
瞬間、ふわりと風に乗ってきた匂い。雅治の何時ものジェイ・ピー・エス。
火をつけるのは百均のライターなのに、雅治がやると何倍も絵になるから不思議だ。

「あーあ、ばれてもしーらない。」

「退学なったらん家ででもお世話になるけ、構わん。」

あたしの忠告も聞かずに雅治が口から吐き出した紫煙はどこか甘い香りがする。
雅治が煙草を吸ってる時は大抵近くにいるから、まるであたしまでニコチンに侵されてるみたいな気分になった。 実際、副流煙何とかであたしの方が被害が大きくて早死にするらしいんだけど。 でも別にあたしはそんなの気にしない。
自分でもたまに吸うし、雅治に止めて欲しいとも思わない。 だって相手が雅治だから。きっとこうしていれば死ぬ時まで一緒に入れると、何故かあたしの心臓が確信してるから。 そう思うと隣にいる雅治が急に恋しくなって、その首に手を掛けて引き寄せてあたしから軽いキスをした。

家で何するつもり?、と問いかければ花嫁修業と即答する雅治が、可愛くて愛しくてたまらない。





 4つの幸せを挙げてみよう

  (君と手を繋げる事)(君とキス出来る事)

(君と共に生きられる事)(君と共に死ねる、こと)






もっと可愛い内容にするつもりが撃沈。JPSはりんごの趣味ですえへへ。