首にかけられた細長い指が俺を染める、占める、絞める。
空気が閉ざされて段々と心臓のあたりが苦しくなる。
僅かな気道をすり抜けさせようと必死に口を開けて息を吸いこんでも
どくんどくんと波打つ脈は自分でも分かる程に体の全部でサイレンを鳴らす。
だけど目の前のは只綺麗に笑っていた。
暗闇の中でオレンジのグロスだけが月光に光って見えた。

「ふふ…雅治苦しい?辛い?死にそう?」

掛けられる声はこんな状況に不釣り合いなほどに優しく穏やかな。
手は未だ俺の首を掴んで離さない。
の細い身体のどこにこんな力が、否、強い意志があったんだろうか。
いつものとは想像もつかないような行動に俺は只なすがままにされていた。
勿論男と女の力の差は歴然で。首を絞められれば確かに苦しい。
苦しいけど抵抗をしようと思えば簡単にをねじ伏せられるのだ。
悲しいかな、男女の関係なんて現実はそんなもの。
イブだのマリアだのファム・ファタルだの、結局は男には敵わないのだから。
と言ってもに抑えつけられている今の俺が言ったところでその言葉が一番現実味を帯びないけど。
でも今の俺はの好きなようにさせているだけ。負け惜しみじゃなくて、本当に。
望むなら俺の事は殺せばいい。のやりたいようにやらせてやりたい。

「…ねえ、雅治。私貴方の事愛してるわ。…本当に心の底から、愛してる。」

そう思ってしまうのは俺がに酷い事をしてしまったからか。

「なのにどうして私以外の人の所に行こうとするの?こんなにも好きなのに。」

それとも今になってやっぱりが好きだと気付いたからか。

「…許さない。私以外ををその瞳に映すなんて、許さない。…ほら、こっちを見て?」

力は緩む事は無く、寧ろ徐々にまた強まっていくばかり。
それと同時にの瞳は一秒一秒と時間を経る毎に優しさを増していった。
一際強く力を込められて咳込むと共にとしっかり目が合えば、
どくり、息が足りない苦しさとはまた違う感覚が心臓を襲った。

「本当に綺麗な雅治。まずはさよならね、また後で会いましょう?…愛してたわ。」

言葉を紡いですぐには俺にキスをした。
軽いリップキスの後、半開きだった唇はすぐに舌を受け入れる。
僅かな空気はあっという間にの舌に絡め取られ、瞼は少しずつ、落ちて行った。












心残りは君からの最後が過去形になってしまっていたことだけ