チカチカ、チカチカ
サイレントマナーにしてあった携帯電話が光った。
最近の携帯電話はご丁寧に、メールの着信や電話が来た時とか
バイブレーションが鳴るんじゃなくて、携帯の表面にある小さな蛍光が光る、って機能がある。


暗い帰り道の真ん中で光った携帯のその光は、やけに眩しく見えた。




携帯を開いてみると、ディスプレイには『メールが1通届きました。』という一文。
受信ボックスを見たら、そのメールは知らないアドレスの人からだった。
内容は     


























『上、見てみな。』 











ただそれだけ。







上に何かあるのかと思って真っ暗な空を見上げてみると、そこには1番星が輝いていた。
真ん丸な月の右下に、ひっそりと小さな小さな星が光っていた。











「うわ・・・可愛いー・・・・」

つい自然と口から言葉が零れた。
慌てて周りに誰かいないか確認をする。誰もいなかったみたいで、ほっと胸を撫で下ろした。


まだ携帯のディスプレイの上で光っている文字にちょっとだけ感謝の気持ちを浮かべながら
私はそのメールへの返信を打ち始めた。

『ありがとー、凄い綺麗だった』と。



相手は誰だか知らない、女か男かも分からない。
だけど、ほんの少しだけ興味を持った自分が居た。


















































暗い一人の帰り道、またメールが届いた。
知らないアドレスから、1通。

暗くなった日に、決まって一人の帰り道にいつもメールが来る。
本当はどこかで私の事を見てるんじゃないかと思って、きょろきょろと辺りを見回しながら
帰ったこともあったけど、それらしい人は全然いなかった。
寧ろ、顔を180度回転させてたから私のほうが不審者に見られそうな感じだった。


メールの相手の事で、分かったのは三つだけ。


男である事と、 同じ立海大付属中学校である事と、 いつも私を見てる、との事。

初めはストーカー?! って思ってつい



『ストーカー?』








って送った事あったけど
そのメールの返信には







『お前、そんな可愛い顔してたっけ?(笑)』






しか返ってこなかった。

どうやら相手は私の顔を知ってるらしい。そんな目立つ事をした覚えは無いけれど。
それに私はこのメールの相手が言う様にそんな可愛い顔でも無いし、至って普通。

成績も中の上くらいで、普通中の普通。

ただ一つ違うといえば、今この相手が誰だか分からない相手とメールをしているという事だけ。


でも私は不思議と詮索しようとは思わなかった、寧ろ少しずつ分かっていく方が面白く感じた。










今日のメールは、




、今日体育の時ボールでコケてた?』


っていう何ともくだらない内容。





『うっそ!見てたの?!』

という返信を打つ間恥ずかしくて顔が少し赤くなっているのが分かった。

だってあれはホントに派手に転んだから、ぎゅあーとか叫んでたから。
今更思い出して急に恥ずかしくなった。



恥ずかしくて無意味に何度もメールの文を読み返していると、ふと気付いた。
そういえば、初めて下の名前で呼ばれたなと。

そりゃあ向こうは私の事知ってるっていうんだから下の名前くらい知ってても可笑しくないけど、
私が気になったのは、このメールの相手の名前。
名前っていうか、呼び名。呼び名を考えてくれないと『アンタ』か『君』としかいいようがない。
だから聞いてみる事にした。  




『何て呼んだら良い?』





『先輩、で。いつもそう呼ばれてる。』






誰に?!って思ったけど私は先輩って呼ぶ事にした。
でも先輩って呼ばれてるって事は二年生か、三年生って事にまた相手を絞れた。
私が三年生だから先輩って呼ぶのは可笑しいかもしれないけれど。


































ある日、先輩からメールが来た。
珍しく昼間に。
この前昼間にメールが来た時は私が風邪で学校を休んだ時だった。


『大丈夫?』


と一言だけ。
でもその一言がかなり嬉しかったのを覚えている。


何かあったのかと、急いで携帯を開いてみると



『屋上に一分以内』





































ふざけんなって瞬時に思ったけど私は携帯を鞄にしまって教室を勢いよく後にした。

ようやく相手が分かるっていう、期待と、ほんのちょっとの寂しさを胸に抱えながら。


































「ガチャンッ!」





肩で呼吸をしながら扉を開けると、そこには誰も居ない空間を風が通り過ぎていくだけだった。

辺りをどれだけ見渡しても筒抜けの屋上には誰も居なかった。

はあー・・・と小さく溜息を吐いて、よく考えれば冗談って丸分かりだよねと心の中で自分に悪態をついていると、
急に視界が暗くなった。








大きな手が私の目を覆った。








背中には、人の感覚がした。






「えっ?!や・・・何?誰・・・?!」





ビックリして、驚いて、慌ててその手を掴んで引き離そうとしても
ビクとも動かないその手。


屋上に吹く風が、ふわりと後ろにいるであろう『先輩』の香水の匂いを香らせた。



「せ・・・先輩でしょっ?!手離してよ!」




後ろで、『先輩』が喉で笑っているのを感じた。














手で目を覆われたまま、ぐいと後ろを向かされて体制を崩す。

斜めになった私の体を支えたのは明らかに、男の子の胸板。

















さっきよりも香水の香りが近くで感じる。

直に私の中に入ってきた、爽やかな匂いで頭が可笑しくなりそうだった。






















「ちょ、何してんのっ?!は、離してよ・・・!せんぱっ」









恥ずかしくてどうにかなりそうで、必死に目を覆われたままでも『先輩』から離れようとした時
































急に顎に手が掛かった。

クイと顔を上に上げられ、視界が明るくなったと同時に唇に落とされた柔らかい感触。

抗議の言葉を言ってた最中だったから、半開きの唇の間からするりと舌が入ってきた。





あっという間に舌を絡め取られて、一気に頭に熱が上がるのが分かった。
































唇が離された時に、ようやく見えた『先輩』の銀色の髪の毛を見て

私は心臓が止まりそうなくらい驚いた。

私の目の前で楽しそうにニヤリと笑っているのは、私のクラスの仁王雅治だったから。





「仁王っ・・・!?え?!何で仁王が?!」


「くくっ・・・どうしたんじゃ、。まさか俺の事じゃって分かってなかったんじゃなかろうな?」


「わ、分かってなかった・・・ってそれじゃあ仁王が『先輩』なの?!」


「そうじゃけど?気付かんかったんか?」

「気付くも何も・・・!仁王『先輩』って誰にも呼ばれて無いじゃん!」


「呼ばれとるぜよ?・・・・・赤也に」







騙された、とへなへなと私の足が崩れていった。

仁王が私に手を伸ばそうとする。私はその手を振り払ってキッと仁王を見上げた。


「・・・何でキスなんかしたの!?それに・・・・メールの事だって」



「何で・・・って決まってるじゃろ、そんなん」

小さくふう、と溜息を吐いて仁王がしゃがみ込んでいる私と同じようにしゃがんで言った。


が好きだ。やからキスもしたしメールもした、これでよか?」


サラリと笑顔でとんでもない事を言う仁王に、私の頬が赤みを増していくのが分かった。


「よくないっ!何でわざわざあんな風にメールしたの?!」




「そりゃあ・・・そうじゃな、よりに感心を持って貰う為?
 ほら、って何でも面倒なもの嫌いじゃろ?それじゃあ興味を持って貰う事から始めよう思ってな」




「俺の事で・・・頭いっぱいになったじゃろ?」





ニヒルな笑みを浮かべる仁王に反論する術を、私は知らなかった。
















































REALTIME LOVE






























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訳分からない所で終了。
ようは携帯から始まる恋って事です。(笑)
直訳すると、リアルタイムの愛ですけれども細かい事は気にしないで下さい。