月夜の夜、ただ啼いた。



喉から鳴る声は、遺志とは逆に弱弱しく小さく。



こんな声じゃ誰にも気付いて貰えない、助けも来ない。





「にゃー、にゃー・・・と。何がそんなに悲しい?」




ふと上から聞こえた低い声。顔をそっと撫でる暖かい手。



見上げた先にいたのは、銀色の髪の人間だった。



月の淡い光に照らされて、時折眩しく光る銀の髪。



あたしは一瞬それに見せられて、元々大きな目を更に大きく開いた。




「冷たいのう・・・今夜はそこまで寒いとは思わんが、何でお前さんこんなに冷えてるんじゃ?」




未だ、顔を撫でる手は優しくて。



それがあたしの求めていた『助け』なのだと分かるのに少し時間が掛かった。



悲しげな眼差しで見つめてくるこの人間に、あたしの心の中のふわりとした部分が大きく高鳴ったのが分かる。



けれどもそれはすぐにまた音をたてずに消えて行って、何だか複雑な感じ。




「・・・毛並みは気持ちええがの。寄り道してるとチャンス失いそうじゃな・・・そろそろ行くか。」




ゆっくりとあたしの頬から暖かかった手が離れていく。



さっきまで触れていなかった風が直に頬を掠めて毛が揺れた。



あたしの視線よりも遥か高いところに行ってしまった人間の顔。



人間と猫の身長差ってこんなに大きなものだったかしら。



そんな事を思っていると、目の前の男は行き成り手を振って歩いていこうとする。



え?待って、お願い!何処へいくの?あたしを置いていかないで!




「にゃー、にゃー、にゃー。」




必死に声をかけると、その男は振り返ってくれて胸の真ん中がほっと暖かくなったような気がした。




「何じゃ、お前さんも一緒に行きたいんか?・・・可愛いの。」




ふっと小さく微笑んでその男はあたしを抱き上げてくれた。



あたしの両脇にある手をはさっきと同じようにとても暖かくてあたしは目をほんの少しだけ細めた。



あたしを抱えたまますたすたと歩いていくこの男。



一体何処へ向かっているのかと思ったら、大きな大きなお屋敷の前でやがて立ち止まった。




「此処はなー・・・・、俺の好いとうヤツの住んでるトコなんじゃよ。」




呟いた男はその屋敷から少し離れた、だけど屋敷がよく見える大きな杉の樹の下に座り込んだ。




「・・・・・・・・・・。」




ぽつりと囁かれた名前は、誰のものだかあたしが知る訳無いけれど、



きっとこの男が愛する人の名前なんだと、それだけは分かった。



そして囁かれた名前に答えるように、そっと2階の1室の窓が開いた。



切なげな眼差しで真っ直ぐ月を見つめる、女。



その姿を何とも愛しそうに見つめる、男。



そしてその男を見つめる、あたし。






決して交差する事は無いだろう、3つの視線。






男はあたしの背中をそっと撫でながら言った、視線はさんに向けたまま。




「・・・待っときんしゃい。もうすぐ・・・・・時は、満ちる。」




その言葉を零すと急に男は立ち上がったから、あたしは勢い余って男の手から落ちそうになった。



それでも変わらずその大きな手はあたしを支えてくれていたけど、考え事をしているようで怖かった。



そっと男を見上げていると、ふと目があってそっと微笑まれた。




「そういえば、お前さんの名前を決めんとの・・・。何が良いじゃろ。」




考え事をするように片手を顎にやる男。



あたしには何の事だかさっぱり分からなかった。



ふと気付いたように歩みを進めていた男が足を止めて、空を見上げてた。



真っ黒な空には小さな小さな月が淡く浮かんでいるだけなのに、男は一体何を見たのかしら。



あたしに向き直って微笑みながら言った。




「よし、お前さんの名前。決めたぜよ。────。」

















瞬時、胸が焼け付くような痛みを感じた。























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多大なるステージの幕開け

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SINCE 2006/11/26 WRITTEN BY 蜜蜂林檎