あの男が歩いてきたのは丁度その時だった。
あたしの頬に一筋の涙が流れている時。
誰にも見られるつもりなんか無かったのに、
神様ってヤツはどうしてもあたしを幸せにしたくないらしい。
タイミング悪く、顔上げと同時にぶつかった視線。
感情の無い視線と有る視線は暫く空を切って重なり合った。



仁王の感情の無いような瞳を見ていると、思考回路がぶっ壊れそう。



頭の中が螺旋で引っ掻き回されたような感覚が走る。
気付いた時に、仁王はすぐあたしの目の前に居た。
未だ流れる涙を拭おうという思いが無かったあたしは、
歪んだ世界の中から仁王を真っ直ぐに睨み付けた。
近づかないでよ、言葉では発さずに視線で載せ付ける。
けれども仁王はそんな視線を何とも思っていないように、
すまし顔であたしの目の前に突っ立ったまま。
笑うでも無い、怒るでも無い、ただ無表情のままで。

先に何かを言った方が負け、と瞬時に思った。
だからあたしは口元をさっきよりも強く締めた。
流れる涙は未だ留まらずにあたしの頬に伝っているけど、
普通こういう時って慰めのつもりなら男が拭ってくれるんじゃないの
とか思ったりもしたけれど、仁王はそうじゃない。
此処にいる意図が掴めない。


お互い突っ立ったままかなりの時間が流れた。
仁王が何を考えてあたしの前にいるのか考えるのに疲れたあたしは、
しょうがなく、へとんとその場に腰を降ろした。
それでも、仁王と未だぶつかっている視線だけは外さずに。
けれどどれだけ視線で訴えても、仁王は何も言わないし、表情にも出さない。
痺れを切らしたあたしは、悔しいけれど、ムカつくけれど、
仁王に向かって両手を伸ばした。






涙で視界が歪んでいたから分からなかったけど、きっと仁王は笑っていたと思う。




























世界中の誰よりも大嫌いな君に


(キスして欲しいと思うあたしはやっぱり変なのかもしれない。)




















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素直じゃない子を書くのが好きなんです。
もひとつ言うと
最近長文小説が書けないんです。(笑)