後ろからぐい、と髪の毛を引っ張られて思わず顔が反り返った。ああ、また好例とも言えようの俺の髪の毛弄りが始まった。 授業中だって丸井と昼食を食べている時だってお構い無しで俺の後ろで一つに縛ってある髪の毛を引っ張ってくる。 別に痛い訳じゃない。引っ張られると言ってもそこまで強く無いわけだし、何よりは俺の彼女。 好きな女に、髪の毛だろうと何だろうと自分の一部を触られているという実感が頭の後ろから心地いい空気となって押し寄せてくる。 そのままは今日も俺の髪を見て笑うだろう。綺麗だ、と。その度に俺はこれは染毛だの痛んでるだの繰り返すけどはいつだって 首を振りながら笑うだけだった。 そして今日もは俺の髪の毛を引っ張ってきた。でも今日の台詞はいつものお決まりの言葉では無くて。見ればの片手には 姉貴がよく使っているのを見る銀色の棒のような金属が当たる光を反射させていた。 一体何に使うものだったか。二、三度姉貴が使っている所を見た事はあったがそれが何かなんて細かくしっている筈が無く。 「・・・その手のモンは一体何じゃ?」 「コテ」 「こて・・・?」 「そう、コテ」 俺への返答をしつつはその棒を持ってにっこりと微笑んだ。その笑顔はいつも通りの無邪気な笑顔だったが俺は何故か半歩ほどから 下がってみたりしたくなった。(なんて、本人には絶対言わんがの) 「で・・・俺のお姫様は、そのコテで何をしたいと?」 「うん、あのね?雅治の髪の毛を巻いてみたいんだけど」 ダメ?と小さく首を傾げる姿が前を向いている俺には横目でしか見えなかったのが非常に残念。というよりは俺の髪を巻いて何をしたいんじゃろうか? ちゅうか、好きな女から頼みごとされて断れる男なんておるんかの。なんてそんな事を考えながら「好きにしんしゃい」と小さくに言い返した。 そんな小さな事でも嬉しそうにするが何とも可愛いらしい。 大人しくされるがままにされていると、耳の後ろあたりからウィーンという小さな機械音が聞こえてきた。 は俺の猫っ毛(らしい)髪の毛をその銀色の棒の間に挟んでは離し、挟んでは離しの繰り返しを続ける。 よくもこんな細かい作業を続けられるものだと小さく欠伸を零したその時、首のななめ後ろからジュ、というやけに耳障りな音が聞こえた。 それと同時に聞こえたの「あ」という声。まるで失敗でも仕出かしたかのような・・・て、もしかしてこれは失敗したんか? が俺の前に立てていた鏡でそっと首筋が見えるように持って来る。と、そこには赤みを帯びた小さな痕が生々しく残っていた。 「・・・何じゃこれは?」 「失敗シマシタ・・・ごめんなさい。火傷痛くない?」 言われて初めてこれは火傷だったのかと気付いた。その痕が余りにも綺麗な赤色をしていたから。 でも火傷と気付けばそれはそれでじんと痛みが体中を駆け巡った。首筋が僅かに熱をもったような気がする。熱い。 じんじんと痛みが波の様に広がるその痕に、俺はつい鏡で見惚れてしまっていた。 たかが偶然が。この、何時もにつけているような痕よりも何倍も紅く綺麗な色を、が俺に付けてくれたというただそれだけの偶然が。 やけに愛おしく思えて思わず鏡を見る目を細めた。 「あ、あの・・・雅治?ごめん、怒ってる?」 「怒ってなかよ?他の誰でも無いが付けたんじゃから」 きっと俺にはの小さな唇が付ける痕よりも、こっちの方が似合ってる。 |