俺の名前は忍足侑士。血液型はA型で、誕生日は、そう。今日。
丁度たった今0時を過ぎた時計が、俺の生誕の日の訪れを告げていた。
そんな俺の掌には、黒色の携帯電話がしっかりと握られている。
理由は簡単。俺の可愛くて大好きな彼女であるからの、誕生日メールを期待しているのだ。

…しょうがないやん、俺だって一応中学生男子。人並みにそれぐらい心待ちにしているもんで。

普段滅多に愛の言葉を吐いてはくれないだからこそ、こんな日こそ甘い台詞が聞けると信じて。
その携帯が鳴るのを今か今かと、阿呆にも握りしめて待っていたのだ。
けれど、漸く鳴った携帯が告げる宛先はどれも友達だったりファンクラブの女達だったり。
俺が望んでいる人物、―の名前は15分たった今でも一向にディスプレイに現れる様子は無い。
忘れられてしまったのだろうか、嫌、それは無い。プレゼントは何がいいか、最近聞かれた記憶があるから。
それならば眠ってしまったのだろうか。それとも、彼女はメール等送らない主義であるのか。
次々に浮かぶ思考は消えずに、けれど結局襲いくる睡魔には勝てずに携帯を枕の友に朝を迎えてしまった。

「はよー、侑士!誕生日おめっと!」

「…ああ、岳人か。おはようさん」

「おいおいどーしたんだよ!元気ねーな、誕生日のくせに!」

朝から教室でうるさいくらい声を掛けてくる岳人。
けど、岳人の言うとおりで、元気どころか生気が出ない。朝携帯を開いてもメールも着信も無かったから。
なんでだよと飛び跳ねる岳人を置いといて、教室に入るとと目が合った。…逸らされた!
あまりにもショックで、ふらふらになりそうな自分をなんとか抑えて席に座った。
の方に視線をやってみても、此方を見る様子は一つも無く友達と談笑なんかしていて。
結局今日はずっとそんな調子で、あっという間に放課後になってしまった。
まさか誕生日の日に彼女にこんな扱いをされるとは思ってもいなかった俺はすっかり抜け殻状態。
けれど、そんな俺のところに漸くがやってきた。恥ずかしそうに頬を染めながら。

「侑士、今日一緒に帰ろ?…付き合って欲しい所がある、から」

「あ、ああ…。今日はミーティングだけやからちょお待っとってくれるか?」

「ん、分かった。じゃあ校門で待ってる」

からのデートのお誘いは珍しいけれど、誕生日の事には何も触れてはくれない。
忘れてしまったのだろうか、つい最近話して居たのに。プレゼントの事、当日どうしようかとの事も。
でもが今日が何の日か忘れていても、と一緒に居れるならこの際構わないから。
とりあいず俺はミーティングを早く終わらせようと部室へと向かった。

時間にすれば30分程度、でも女の子を待たせるには十分過ぎる時間。
俺はなるべく急ぎ足で校門へと向かった。10月の空はすぐに暗くなる、が不安がっていないか心配で。
けれど校門にいたは至って普通に。侑士遅いだなんて頬を膨らませたりして。

「それじゃあ早く行こ?早くしないと暗くなっちゃう」

そう言って俺の手を取り、そのまま引いて先に歩いていってしまうに引っ張られるように進んだ。
が俺の手を自分から繋いだのは初めてだったから。今日は珍しい事ばかりで。
何だか俺の方が気恥ずかしくなってしまって、其れを誤魔化すようにに問いかけた。

「なあ、どこ行くん?」

は俺の手を引っ張ったまま、俺を振り返らないで内緒、と答えた。
連れてこられたのは駅の近くにあるデパートの最上階にある屋上広場。
未だ夕方だというのに其処にはやけに人が少なくて、そう、所謂カップルの集まりであった。

「、此処…嫌いやなかったん?」

「い、いいから!ほら、こっちだよ。来てきて!」

普段はこんな場所は、俺は好きではあるけれど、が嫌がるから近寄らない筈。
それをが自分からそれも俺を連れてきてくれて。それだけで十分、何処か嬉しかった。
が俺を引っ張って連れてきたのは屋上の入口の真後ろ。
柵の方まで近づけばはそっと俺の手を離して、俺の後ろに回った。
何をしているのかとを振り返ろうとすれば、背中から回ってきた、小さな腕。

「?!どないしたん?」

「ま…前、向いてて!あたしだって恥ずかしいんだから!」

首からの顔を見ようとしても、思い切り背中に押しつけられていてよく見えない。
とりあいずの言うとおり、体を前に向きなおした。
すると背中からぽつりぽつりと、小さな、の声が聞こえた。

「…あ、あの…あたし達はお互い両想いみたいな感じで付き合ったけど、さ。
 あたしはずっと、それこそ侑士があたしの事を好きになってくれる前から、ずっと本当に、侑士が好きで。
 だから付き合えた時は本当に嬉しくて。…その、いつもは、可愛くない態度とかとっちゃうけど。
 ほんと今更だけど、…こんなあたしと付き合ってくれて、ありがと、侑士」

ついでに、生まれてきてくれてありがとう。だなんて、誕生祝いはついでかと思わず突っ込みたくなったけど。
が初めて口にしてくれた言葉の数々、どれも全部、どんなプレゼントよりも嬉しくて。
思わずの腕を解いて正面から抱きしめ返して、キスをした。








(おおきに。俺もめっちゃ大好きやで?…でもメールぐらいはしてくれてもええと思わん?)
(っつ…!そ、それは…!)
(それは、何やの?…俺ずっと寝ずに待ってたんやで?)
(…知らない!)(…なんて送ったらいいか分からなくて結局未送信BOXに入ったまんま、なんて言えるか!)









キスして抱きしめてあげる

 (君にだけなんだから、ばーか!)
ちゃんはおったりの好きなシチュでお礼を言いたかっただけなんです。 まあ何はともあれ忍足誕生日おめでとう!