「愛が目に見えるんならよかったんにな。そしたら、いつも近くにおいて確認出来るんに」

――は?侑士が切り出した唐突かつ変にロマンチストじみた発言にあたしは思わず変な声をあげてしまった。何それ、と心に浮かんだ疑問をそのまま口に出せば侑士はまた「だから、愛が目に」と同じ台詞を言おうとしたのであたしはすぐにそれを制止した。そんな痒くなるような台詞、何回も聞かされて堪るか。侑士はどこか不満そうな顔をしたけどそんなのお構いなしであたしはもう一度侑士に質問をした。

「…何で目に見えないとだめなの?」

てゆうか、見える訳ないじゃん。侑士に視線をやりながら問い掛ければ侑士は溜息を吐きながらそんなんわかっとると呟いた。

「せやかて、世の中のモンで何が1番信用出来るかちゅうたらやっぱ目に見えるモンやろ?目に見えて手に触れられるモンやないとそれが本物かどうかなんて分からへんやん?」

侑士は傍から聞けばまるで幼い少年のような事を聞いてくる。少しだけ可愛いと思ったそれを口にしなかったのは侑士の表情が真剣そのものだったからだ。真っ直ぐにあたしに"答え"を求めてくるその瞳から逃げる事なんて出来そうにはない。だけど、特に逃げるつもりもなかったけど、何て答えたらいいかわからなかった。

「…侑士は今全てのカップルとあたしを敵に回したよ」

しーらない、と適当な口調で零せば侑士が小さく苦笑いしたのが見えた。侑士の視線はそのまま、窓の向こうの深いオレンジに向けられたまま。

「別に目に見えんからって信用しとらん訳ではないねん。が俺の事好きやゆう てくれんのはめちゃめちゃ嬉しいし、が俺の事好いてくれとるんもわかっとる」

ふと言葉を切れば侑士はあたしと視線を合わせて笑った。無性に切なくなって胸の奥がきゅんと鳴る。侑士はすぐにあたしから視線を外して、今度は寂しげな目をオレンジに戻した。

「せやけどそれはあくまで今の話や。未来、―それこそ1秒先の事だって俺らには分からへん。俺の視界にが入っとる時、が俺の手の届く範囲におる時なら目合わして抱きしめればは確かに確認出来る。けど24時間片時も離れんと一緒におる事なんか不可能やん。本間にあかんねん、俺。もし、もしが俺のおらん所で誰か他の男とおったりするかと思うと、嫉妬やら何やらで頭可笑しくなりそうや」

「ゆう…し?」

得意のポーカーフェイスでも隠しきれない想いの断片が、侑士の全部から伝わってきてあたしは思わず侑士に手を伸ばした。侑士がそこに居る事を確認したくて、だけど下手に触れれば壊れてしまいそうで彷徨った末あたしは侑士のセーターの裾をぎゅっと握りしめた。

「やから、愛が目に見えるモンならええのになって。したらどこにおっても安心出来るし、と長い事離れとっても大丈夫そうやん?」

ぽんぽん、とあたしの頭を撫でる侑士の視線は優しくてほんの少しだけ哀しそうだった。侑士の手は大きくて暖かい。だけどあたしは大きな赤ちゃんに頭を撫でられているような不思議な気持ちになった。だって、だって侑士は、

「……不安なの?」

真っ直ぐ視線を侑士に合わせれば、目を下げて笑う侑士が居た。
あたしは堪らなくなって侑士の胸の中に飛び込んで、好きだよと囁いた。














(なんて弱くて愛しい恋人)











ちょっと弱めの忍足が書いてみたかった