「ねえ、景吾。私景吾が欲しい。」


は化粧台の前でキュッキュッと赤いルージュを回しながら呟いた。
あまりにも小さい声だったし、の視線は鏡に向いていたから独り言かと思ったが
自分を見る俺の視線に気付いたのか、は鏡から俺に視線を向けて艶やかに微笑んだ。
未だルージュを付けていないのにの唇は潤みを帯びていて、
やはりは笑っている姿が一番綺麗だ、と一人で思った。





「行き成り何言い出しやがるかと思えば。
 お前はもう俺の彼女だろ?不服なのかよ?」





俺の言葉には少し考えてからゆっくりと首を横に振った。
が考えている間、もし首を縦に振られたら俺はどうすればいいと考えていたがその心配は不要らしい。
ほっと安堵を零してまだ濡れている髪を乾かそうとタオルを頭に乗せたら、はまた鏡の方に向いて呟いた。





「不服じゃないよ・・・ただ足りないだけ。」





聞こえたその言葉は酷く俺を動揺させた。
思わず髪にタオルを当てたままの方に思いっきり振り返る。
は俺のそんな動作を微塵も気にせずに、鏡を見ながら唇に赤のルージュを付けていた。
すっとルージュを引くの手がやけにゆっくりと官能的なものに感じた。
そんなの所までゆっくりと歩いていって、座っているに後ろから覆いかぶさるように化粧台に手をついた。
タオルが落ちたのなんてのは気にしない。後でメイドにでも拾わせとけば良い。





「バーカ、そういうのを不服って言うんだろうが?何が足りねえんだよ?」





「そう?でもちょっと違うんだもん。だって景吾は私の事愛してくれてるでしょ?」





は手に持っていたルージュを化粧台にコトンと置いた。
そうする事で空いた手を俺の首に回して、そっと頭を撫でた。
未だ濡れたままだった髪がの手に絡みつくのが分かった。





「当たり前だろ、そんなの。
 最も、今の愛が足りねえっつーんならもっと愛してやっても良いんだがな?」





「ううん、景吾の愛が足りないんじゃなくって・・・。
 多分私が景吾の事愛し足りないんだと思うの。」





「アーン?どういう意味だそりゃ?」





「ふふ、景吾が気にする事じゃないよ。
 私が只もっと景吾を愛せばいいだけの話だし。要は自己満足の問題だもん。」





そういうとは俺の方に体を向けて、にっこりと微笑んだ。
緩む唇はルージュがついた所為か、先程よりも紅く艶やかに光っていた。





「ま、お前が気になるんなら好きにすればいい。
 別にに愛されてる実感が無い訳じゃねえしな。」





は俺の言葉に何を思ったのか、すっと俺の首元にある赤い痕に手を伸ばした。
優しく首筋の痕を撫でる指先はいつもより優しく、ゆっくりと俺の性感帯を刺激する。
暫く俺の首筋にある痕を撫でていたかと思うと、はぐっと手に力を入れて俺の首を引っ張った。
手を化粧台についていたお陰で倒れる事は無かったがやや前のめりになった俺に、
はそっと首筋にキスを落として囁いた。





「だって、愛しておかないと逃げて行きそうなんだもん。」









がキスした後の首筋には、赤い痕の上に紅いルージュが重なっていた。




























歩みくるものは、運命
        (居心地は上々)





























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(だから逃げていかないで傍にいて