ぐっと腕で体を支えて、震える足で立ち上がった。
否、立ち上がろうとしたけれど震えで上手く立ち上がれなかった。
怖い、目の前の真実を認めるのが何よりも怖い。
全て受け入れてしまうと体が芯から崩れてしまいそうで。
ただ嘲笑をするだけが仕事のお人形さんになってしまいそうで。
前までの私もそうだった。ようやく居場所を見つけたと思ったのに。










神様はいとも簡単に私の"たったひとつのもの"を奪おうとする。









だからこそ僅かな隙間を大量に残して私は此処に立っている。
ちらりと時計を一見してみれば、出発時刻まで後5分間。タイムリミットはそれだけ。
それなのに私の隣に居るリョーマはいつもと同じ綺麗に整った顔で前を見据えている。
でも、僅かに潤いを帯びている瞳から彼もきっと私と同じ気持ちでいてくれてる事が分かった。
カチリカチリと時計の針の音がやけに残酷に響く。




「、俺そろそろ行かなきゃ。」



そう言って立ち上がったリョーマはすっと私の方を見て軽く微笑んだ。
伸ばされた細い手に手を重ねるとリョーマの体温が凄く暖かいもののように感じた。
私達はどちらからとも分からずに、強く強く手を握り合った。
神様すらも私達を分かてないように、強く。





だけどその握り合った手はすぐに自分達で引き離さなければいけない。
そうするしか、無かった。
リョーマはたった今まで私の手を握っていた左手でそっと私の頬を撫でた。
そっと私の唇を指でなぞって「愛してる」と小さく囁いた。




段々小さくなっていく背中が流れる涙の所為でぼやけてしまう。
最後のリョーマの姿を目に焼き付けておきたいのに、何度拭っても涙が零れてしまう。
私はもう一度袖でぎゅっと涙を拭ってからリョーマとは背中を向けて走り出した。
まだ、会える。もう一度だけリョーマと目を合わせられる場所が、まだ。
息切れしたまま辿り着いた場所は、ガラス1枚を隔てた空港の出向者と見送り者の最後の場所。
ガラス越しに見える白い通路に、一人、また一人と出向者の姿が映っては消えていく。
リョーマが来るのに間に合わなかったかと思ってその場でへたりと腰を降ろしてしまったら、
ふと、目の前からコツンとガラスを叩く音がした。
リョーマが笑ってた。最後とは思えないくらい綺麗に、格好良く口端を上げて。





「行かないでっ・・・お願いだから・・・リョーマっ・・・!」




ドンと思わず目の前のガラスを叩く。
薄いガラスの筈なのに、感じる距離は幾千もあるようで。
でも何度叩いても目の前のガラスが割れる筈も無くて。
そんな時、ふとリョーマがガラスの向こう側で私の手と同じ場所に手を置いた。
それは重なっているようにも見え、リョーマの気持ちが伝わってきて胸にまた痛みを感じた。
驚いて顔を上げてみれば、優しく微笑んでいるリョーマの顔。
お互いの目があえば、それはどんどんと近づいて行って。
ガラス越しに、唇同士が重なった。
重なった瞬間弾ける様に、リョーマはすぐに踵を返して白い通路を進んで行った。
私は私で、去っていくリョーマの姿を見ないようガラスに背を預けて大きな声を上げて泣いた。
行かないでと、声よりも先に嗚咽が止まらなかったから。
ありがとう、バイバイ、大好き、さよなら、リョーマ。





















歩みくるものは、運命
(泣き叫んだって、止まらない)





























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(それでも歩まなければいけないんだ