落ちかけた夕日の光だけの生徒会室は薄暗かった。そんな中で黙々と机に向い続ける男が一人。端正な顔に掛かる眼鏡を時折上げる仕草が、夏服の白いシャツに映えて、―例えば、ここが学校で且つ彼が制服を着ていなければ8割の確率で教員に間違えられてしまうであろう―くらいに大人びて見える少年が数枚の紙を机に広げてしかめっ面をしていた。部屋に響くのはシャーペンの音と、

「手塚ぁー、見ぃーつけた」

間のびした女性特有の甘ったるい、声。遠慮がちにゆっくり開けられた扉とは裏腹に、一度扉を閉めれば少年の傍まで駆けよるその姿。綺麗に巻かれた髪に、曲げられたスカート、マスカラとアイラインでしっかりと強調された目元に、ぷっくりと透明なグロスが惜しみなく塗られた唇に、は満面の笑みを浮かべていた。

「ずぅーっと探してたのにぃ。生徒会室に居るなんて!」

手塚ってホント真面目だよねぇ。笑いながら手塚の前に椅子を引いて腰掛けるに、手塚は大きな溜息を吐いた。

「…、生徒会室は部外者立ち入り禁止だと何度も言っている筈だが?」

「もー、固い事言わないでよ!心配しなくても校費盗むくらい困ってないし」

「そういう問題じゃないだろう」

目線は書類から外さずに呆れ口調で零す手塚とは対照的に、何が可笑しいのかはあははっと笑うだけだった。高い声は、薄暗い部屋と、只只管に机に向かう少年の背中には酷く不釣り合いで。

「ねぇー、これなぁに?」

「今学期の生徒会活動をまとめている」

「ふぅーん。…もう生徒会も終わりなんだねぇ」

「ああ」

「お疲れ様」

「…ああ」

頬杖をついて嬉しそうに手塚を眺めると、それに気づいていて未だに視線を合わさない手塚。言葉が途切れれば流れる沈黙は静かで、それでいて柔らかい。傍から見れば正反対に見える2人。それがこんな風に2人で、穏やかな時間を過ごしているなんて。

「…ふふ」

「…何が可笑しい?」

「別にぃ?手塚はキレーな顔だなぁって思ってただけ」

「………」

「あ、手もキレー。少しごつごつしてるけど」

あたし好きだよ。まるでうっとりしたような声色にずっと動き続けていた手塚の手は漸く静止した。すらりと細く伸びた指に、筋肉の付いた甲。はその手を見つめて、手塚はゆっくりとを振り返る。窓から入った僅かな風がふわりとの髪を撫であげて、落ちた。シャーペンを持っていない右手が動く。部屋のオレンジが少しずつ消えていく。―の顎を掴んで、唇を寄せた。

「えへ、学校で初めてのちゅうだー」

「分かったから少し静かにしてろ」

もう少しで、終わる。ぽんとの頭を撫でれば手塚はすぐに元の作業に戻った。
夕日が落ちる前に「はーい」という声が響いて、生徒会室は今度こそ静寂を取り戻した。






















要は気まぐれだってことです