―ふわり。暖かい風が屋上まで桜の欠片を運んできたらしい。俺の周りには数枚のピンク色が無造作に落ちている。春は四季の中で1番好きだ。食べ物だって美味しいし、太陽は柔らかくて、只でさえ重い俺の瞼を更に下へ下へと誘導する。いい天気だ。聞こえてくるチャイムの音なんか気にせずに、俺はとうとう上下していた瞼をゆっくりと下ろした。と同時に屋上の鉄扉を開ける音で、堕ちかけていた思考が跳ねあがった。 音の主は、「見つけた」と小さく呟いた後俺の頭の上まで歩いて来て、今の今まで光があたっていた俺の顔に影を差した。 「やっぱりここにいた、ジロー」 「…今、寝かけてたのに」 小言と同時に欠伸を漏らせば、上から溜息が聞こえた。 「ねー、いくら勉強は跡部に教えて貰えるからって、授業出ないと単位貰えないよ?」 「ギリギリでも進学は出来るもーん…」 「…もし留年になったらどうすんの?」 「そん時はそん時ー」 頭の後ろに組んでいた腕を組み直して、俺は本格的に寝る体制に入ろうとした。ふわふわした空気。寝るにはもってこいの天気なのに、狭くて薄暗い教室で椅子に座ってつまらない授業を聞くなんて冗談じゃない。どうせ教室に戻っても眠くなるんだ、寝るなら最高の環境の方がいい。そう思ったから、 「…あたしは、ジローが後輩になったら、嫌だよ」 聞きなれない弱気な声。目を開けば何とも言えない顔をしているが居た。不安と悲しみが入り混じった、可愛い可愛いの瞳。俺の口は自然と緩んで。上半身を起こしながら手を伸ばせばギリギリで届いたの腕を、思い切り引っ張った。「っきゃ」警戒していなかったは小さな悲鳴をあげながら堕ちてきて。狙い通りの所に来たの唇に、俺は思いきりキスをした。舌を入れればすぐに逃げようとするの頭を手で押さえて、俺の中の"俺"が満足するまで、何回も何十回も。 「―今日はピンクか、可愛いね、チャン?」 最後にペロリとの唇を一舐めしてから、一言。嗚呼、俺今きっと最高に酷い顔してんだろーな。なんて思いながら、今だに何がおこったか分からないような顔をして呆けているを横目に、俺はゆっくりと立ち上がった。コンクリートで寝ていた背中は痛くて、ぐっと背伸びをすれば随分と気持ちがいい。ふわあ、一際大きな欠伸を吐いた後に歩き出せば、後ろから威勢のいい声が掛かった。 「っねぇ!ジロー!」 どこまでも可愛い彼女に俺の足は、止まる。 「…授業行くんでしょ、一緒に怒られてくんないの?」 振り返って笑いながら言えば、はぱちりと瞬きをした後「しょうがないから一緒に怒られてあげる」とまだ赤みを帯びたままの顔を緩めながら頷いて走ってきて俺の腕をとった。
(ずるいよね、ジローは)(そ?)
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