『お伽噺をしてあげる…さあ、おいで?』
昔々、ある所にお姫様がいました。 珠のように綺麗で美しいお姫様に、両親はおろか国民も皆お姫様に愛を捧げていました。 そんなお姫様は生まれた時からずっと、両親の過保護を理由にお城から出して貰った事がありませんでした。 15年間もの間、パーティーを除いてお城で召使いと両親、家庭教師としか 顔を合わせていなかったお姫様の元へ、ある日手紙が届きました。 同じ国の中の王子様から、お姫様と結婚したいとの申し込みでした。 両親は喜んで、お姫様に何も言わずに結婚を決めてしまいます。お姫様はとても悲しみました。 私はまだ恋もした事がないのに、どうして好きではない人と結婚をしなければいけないの! 長い間我慢していた思いがとうとうはちきれて、お姫様はお城から逃げ出してしまいました。 両親は大慌てして、急いで国中を探させました。 お姫様はというと、がむしゃらに走り続けて国外れの湖まで辿り着いていました。 初めて見る外の綺麗な風景、湖に月が映る幻想的な光景にお姫様がうっとりしていると騎士の一人がお姫様を見つけ出しました。 騎士はすぐにお姫様を連れて帰ろうとしますが、お姫様は帰りたくないと言います。 困った騎士が何を言ってもお姫様は聞く耳を持たず、しまいには泣き出してしまいました。 そんなお姫様を見ていると騎士はだんだんお姫様を可哀想に思えてきました。 そして騎士は、今ならまだ自分以外の誰にも見つかっていないから、一緒に逃げましょうとお姫様に言いました。 お姫様は喜んで騎士と一緒に馬に乗り、お城から遠く離れた所に逃げていきました。 静かな草原に辿り着いた2人はそこで家を建てて、仲よく暮らしました。 一緒に生活を共にするうちに、優しい騎士にお姫様はどんどん惹かれていき、騎士もまたお姫様に惹かれていきます。 けれど幸せな生活は長くは続きませんでした。 お姫様の両親と婚約者の王子様が、とうとう2人を見つけ出してしまったのです。 2人は必死に逃げました。けれど最後には捕まってしまい、お姫様は元のお城へ、騎士は牢獄へと入れられてしまいました。 両親は、騎士がお姫様をたぶらかしたのだと言って騎士に罰を与え、お姫様には何もありませんでした。 お姫様はとても悲しみました。お姫様は騎士の事を、愛してしまっていたからです。 そして騎士もお姫様を愛していました。お姫様とまた会う為に、どんなひどい罰も耐えようと思いました。 しかし、お姫様が騎士を愛している事に気づいた王子様が2人を会わせる事を許しませんでした。 騎士は国外れの塔に閉じ込められ、お姫様には着々と王子様との結婚の日が近づきます。 自分の力では愛するお姫様を助けてやれない事を、騎士は深く悲しみます。深く、深く、涙が枯れ果てるほど深く悲しみました。 悲しみはいつしか自分をこんな所に閉じ込めた王子への憎しみに変わります。騎士は血の涙すら流しました。 そんな騎士を見つけて可哀想だと思ったのか、いい機会だと思ったのか。騎士の前に悪魔が現れました。 力をやろうか?全てを手にいれる事の出来る力を。 全てなんていらないんだ。僕が欲しいのはお姫様を助けられる力だけだ! 復讐はしたくないのか?心の底から憎いと思う奴が居るはずだろう。 ああ、いるさ!けれど君は悪魔だろう?何が欲しいんだ、僕の心臓か? 何もいらない。天国と地獄の先を見てこればいい。 そう言って悪魔がにやりと笑った時、ぱあっと牢獄の中が眩しい光に包まれました。 騎士が目を開けた時、目の前に悪魔の姿は無く、牢獄の姿も看守の姿も無く、只背中に黒い翼を生えた自分が居るだけでした。 騎士はその翼ですぐにお城へ向かって飛び出しました。 お城では今まさに結婚式が始まろうとしていました。 お姫様は真っ白なウェディングドレス姿で、ただただ涙を流していました。 けれどお姫様をどうしても妻にしたい王子様は式を決行させようとお姫様の手を引きます。 沢山の民、兵隊に囲まれて結婚式は始まりました。 お祝いの歓喜に包まれている周りは誰一人、お姫様が結婚が嫌で逃げ出したという事を知らず、 一人の騎士にさらわれたお姫様を王子様が助けだしたと思いこんでいるからです。 だからお姫様が流し続ける涙に気付く者は誰もいませんでした。 王子様によってお姫様の薬指に指輪がはめられた時、大きな音と風が辺りを包みこみました。 悪魔の力を手に入れた騎士が、お城へと到着したのです。 王子様とお姫様の前に現れた騎士が、お姫様を連れて逃げようとしたその時。 周りにいた沢山の兵隊達が一斉に騎士に襲いかかってきたのです。 騎士は必死になって戦いました。自分達は愛し合っているから、邪魔をしないでくれと皆に言います。 けれど兵隊達は聞こうともしません。次々に襲ってくる兵隊達に、騎士の周りはあっという間に血の海になっていきます。 もうやめて!とお姫様が叫ぶのが聞こえた騎士は、兵隊達を何とか振り切って、黒い翼でお姫様をさらおうとした時。 鋭い剣を持った王子様が騎士へと襲いかかりました。 お前なんか死んでしまえ! 王子様、貴方さえいなければ僕達は幸せに暮らせたのに! 騎士よ、お前さえいなければ俺達は幸せに暮らせたのだ! 激しい決闘の末、騎士が何とか王子様にとどめを刺そうとした時。 兵隊の一人が2人の間に飛び込んできて、騎士の背中にある黒い翼に剣を突き刺してしまいました。 呻き声をあげながら倒れた騎士に、お姫様が駆け寄ります。 お姫様のウェディングドレスは騎士の血で真っ赤に染まり、それでもお姫様は倒れた騎士を抱き上げるのでした。 ああ、ひどい。私のせいで、ごめんなさい。死なないで、愛しい人よ。 僕は大丈夫だから、せめて愛する君だけでも逃げて。 愛しあう2人のやり取り、何よりも自分が愛するお姫様に愛されている騎士を見て、 王子様は居てもたってもいられずにお姫様を引き離しました。 泣き叫ぶお姫様。騎士は悔しさに唇を噛み締めますが、傷ついた体は言う事を聞きません。 そして騎士は再び捕らえられて、悪魔でさえも逃げ出す事が出来ないように深い深い国外れの森に閉じこめられました。 こうして2人は離ればなれとなり、王子様に閉じ込められた騎士は2度と外へ出る事はありませんでした。
このお話は時間が経ち、いつしか伝説となって語り継がれていきました。
"国外れの森にはいってはいけないよ 愛する姫を奪われた醜い魔物が夜になると暴れて、近づく人を殺してしまうから"
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