『リソナ・ユヴェントス・トウ・ジ・エンド』




















雅治と一緒にこの城に暮らす事になったは今、雅治と城の中を歩き回っていた。 とても広い城だから、迷わないようにと雅治が案内してくれているのだ。 まず最初に食堂から、大広間、寝室、玄関、書庫。そして今は中庭に来ていた。 暖かい光が差す庭には、生き生きとした緑の植物が立ち並び中心には小さな噴水がある。 の家にはなかった、おとぎ話の世界のようなそれには歓喜の声をあげた。 「うわぁ…凄くきれい!これ誰がお世話をしてるんですか?」 「全部俺がやっとうよ。ここじゃあまりやる事がないんでな。」 苦笑しながら軽く言う雅治に、はびっくりしたように視線を向けた。 失礼かもしれないが、雅治はとてもそんな事をやるような人には見えなかったからだ。 人は見かけによらないなぁ、なんてはこっそりと思いながらもう一度庭を見渡す。 「これを全部一人で…。凄いですね…ま、雅治…さん…は。」 掛けた声が途中で途切れる。 今更ながら何て呼べばいいのか分からなくて、迷った末にさん付けで呼べば雅治はまたハハッと笑った。 「雅治でええよ?それに敬語もいらん。どうせ2人しかおらんのやし、俺もって呼ばして貰っとるからなぁ。」 雅治が言えば2人の足元にいた黒猫が存在を示すようににゃーんと鳴いた。 拗ねた鳴き声が静かな庭に響きわたる。 見上げる瞳はまるで"自分の存在を忘れるな"とでも言っているように見えた。 その愛らしい姿には思わずくすっと笑みを零した。 そっと猫を抱き上げ胸に抱えてその頭を撫でれば、猫は気持ちよさそうにもう一度鳴いた。 「それじゃあ、この子の名前も教えてくれる?…ま、雅治。」 照れながらもが名前を呼べば雅治は嬉しそうに笑った。 まるで小さな子供のような笑顔を見ればも自然と笑みが零れる。 どきん、と速まった鼓動に気付かないままに2人は微笑み合った。 雅治はに近づいて、の腕の中に居る猫の喉元をそっと撫でた。 「ミト。…こいつの名前はミトって言うんよ。」 ミト。小さく繰り返せば猫は嬉しそうにまたにゃーんと鳴いての手をぺろぺろと舐めた。 「…なんじゃこいつ、腹でも減っとるんかのう?」 「ふふっ、でも私もお腹すいちゃった。ご飯にしよう?」 「ああ、そうじゃな。今日は天気もいいし外で食べるか?」 「うん、ここで食べたい!」 それじゃあ飯を取ってくる、と残して雅治は食堂に向かった。 は「いってらっしゃーい」と手を振った後にもう一度広い中庭の中を見回した。 見れば見るほどきれいだと思う、手入れが行き届いている庭。 噴水の近くまで歩いてこれば、腕の中にいたミトをそっと下ろしてしゃがみこんで水に触れた。 指先を掠める水は冷たくてとても気持ち良い。 しん、と静まって鳥の声だけが響く中庭では飛び出してきた家の事を考えていた。 政略結婚として無理やり結婚させられそうになったのは事実。 だけどの両親は優しく無かった訳ではない。寧ろ優しすぎるくらい、優しくて。 結婚を告げられた時は涙すら流していた両親には何も言えず、当日まで過ごしてきた。 そしてついに逃げ出してしまったのだ。 今両親は何をしているだろうか?―私を探してる?それとも相手の家に謝るのに必死なのか? どちらにしても迷惑をかけている事には変わりない。 憎んでいるだろうか、逃げ出してしまった私を。 ここにいる事がバレてしまったら、私は、私を助けてくれた彼はどうなってしまうのだろう。 の胸を痛く締め付けるのはただ、両親に対しての罪悪感だった。 ずきりと心臓が音を立てて痛む。 どんどん下降していく思考に、の目にはうっすら涙が滲んだ。 「…なんちゅう顔しとるんじゃ。そんなに腹減ったんか?」 斜め上から掛けられた声にが振り返れば、バケットを持った雅治が優しい笑みを浮かべていた。 「ほら、腹減ったなら食べろ。…そんで何があったかは聞かんが、はよ元気になりんしゃい。」 差し出されたパンと優しい言葉に、の胸はじいんと暖かくなるのを感じた。 雅治の優しさに、つい先程まで胸を痛めていた不安は姿を消してしまう。 は満面の笑みでありがとう、と返してパンを受け取った。


















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